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October 2, 2017

Bank of Tokyo Mitsubishi UFJ June 2017 issue:”Jurisdiction and Controlling Law in Dispute Resolution arising from US Transactions with Japan,” by Naoko Inoue Shatz

米州(北米)  シャッツ法律事務所  米国法解説
M0828-0003
米国における契約違反に関する管轄地/準拠法と紛争解決の方法

米国企業は、当事者同士の信頼関係と評判で事業を経営する傾向にある日本企業と異なり、法や契約上の文言に事業の信頼関係を反映させる傾向にあります。もちろん信頼関係による事業はどの企業にとっても重要ですが、企業間で問題が生じると、米国企業はその時点で当事者同士の信頼関係が損なわれたと判断し、通常、自社の弁護士を通してその問題解決を試みます。従って、日本企業が米国企業と事業関係を結ぶ際は、最初から訴訟の可能性を想定して交渉する必要があります。

例えば、事業交渉の一環として、契約内容の同意の確認をしますが、契約終結前に相手(米国)企業に対して法的影響や訴訟の可能性を考慮した交渉をすることによって、相手企業の本音と目的がつかめる上、契約寸前に交渉中の発言を撤回するような結果にならずに済みます。さもなければ、契約書を相手企業から提出された際に(米国企業側が契約書を作成した場合)思わぬ内容、つまり日本企業の不利になるような内容となっていても、その内容を受け入れなければ事業関係が成り立たないような状況に追い込まれることもあります。

契約内容に関しては、事業内容によって条件や項目内容に相違はありますが、一般的に日本企業と米国企業間の事業契約に関して最も共通する契約条件項目は、訴訟になった場合の紛争解決方法と管轄地/準拠法です。

まず、管轄地/準拠法に関してですが、もし契約書に管轄地/準拠法の内容が明記されていない場合は、一般的に被告人が所在する場所か証拠がある場所が管轄地となります。契約条項に管轄地/準拠法が明記されている場合については、その内容に従って管轄地/準拠法が決定されます。

しかしながら、米国企業対日本企業の契約の場合、多くは米国に管轄地が設定されています。これは、日本企業側の譲歩の結果と考えられますが、お互いの契約条件や企業間の力関係によって決定されるのが一般的です。つまり、日本企業の資源や業務サポートがなければ米国企業の経営が難しい立場にあれば、当然、日本企業に主導権があり、契約内容に関する交渉も有利に運べ、管轄地も日本に決定することが自然であると解釈できます。

一方、日本企業が米国での事業展開のために米国企業の業務を必要とし、またその米国企業の業務内容が特化されていて、他企業への依頼が難しい場合は、一般的に米国企業に有利に交渉が進みます。いずれにしても、もし米国に管轄地/準拠法が決定されれば、日本企業にとって厄介な問題といえます。

例として、米国企業からの債権回収が挙げられます。負債者が米国企業であるにもかかわらず、契約上、管轄地/準拠法が米国に設定されていれば、当然、債権回収の申請は米国の裁判所に提出せざるを得ません。その際、米国認可弁護士を立てることを法的に義務付けられています。特に提訴後、裁判所規定に準じ、証拠開示や証人尋問、また裁判所提出書類、個々の問題に関する申請書提出など、多くのエネルギーと費用が費やされます。

日本企業としては、米国企業が借金をしているのになぜ米国の法廷を通し、しかも米国企業の弁護士費用の支払いまでしなければならないかという疑問とフラストレーションはあるでしょうが、米国企業との事業契約の際に、その可能性を考慮した上で契約交渉と決定をするべきだというのが米国における事業活動の一般的な考えです。つまり、リスクマネジメントの一つの方法として、多くの経費負担と損失を回避するために、勝訴側に弁護士費用が支払われるように契約を結ぶことが挙げられます。

このような時間/労力/費用を多く必要とする米国の裁判所を通した紛争解決を避ける一つの方法として、調停(Arbitration)があります。
まず、国際企業間の契約上で調停を選択する場合は通常、1)裁判地、2)適用法律、3)調停者(仲裁人)の人数、4)使用言語、5)証拠開示の権利と義務、6)賠償の方法、7)調停団体などを設定します。ちなみに主な調停団体として、ICC(International Chamber of Commerce)とAAA(American Arbitration Association)が挙げられます。また、裁判地や適用法律を選択する際、両者の力関係のみならず、問題が起きた場合の証人や証拠収集においてどの国で裁判あるいは調停をするのがお互いのビジネスにおいて効率が良いかということも考慮する必要があります。さらに、問題が起きた場合の賠償金額もあらかじめ考慮に入れ、被害が少ないと見なされる場合は調停を通す方が速やかに安めの費用で問題が解決できるでしょう。

調停の利点としては、1)当事者が調停人を選抜できるため、特定の裁判所で指名された裁判官の偏見による裁定の可能性が少ない、2)調停人による裁定が最終である、3)裁判所を通すと情報が公になることがしばしばあるが、調停の場合は秘密保持契約(Confidentiality Agreement)さえ当事者同士で結んでいれば情報が漏れる心配がない、
4)調停の場合、証拠開示に関する規定が緩和されているため、提出書類の量と範囲を狭めることによって、それにかかる費用と時間を抑えることができる、5)裁判所では多くの申請手続き回数を踏み、正式な証拠開示を求められ、さらに宣誓証言や陪審裁判を求められる可能性があるが、調停はそのような形式によって運営されていないので、問題解決は比較的速く、費用も安く済む、ということなどです。

従って、国際企業間の契約とその紛争解決にはよく選択される手段です。ただしこのような紛争解決手段は問題が起きる前、すなわち契約交渉中に決定しなければなりません。また、調停が必ずしもベストな選択とも限らないということです。

上記のような利点がある一方、調停の不利な点は、1)上記のように簡易な証拠開示と、証人供述を必要としないため、判決が下されるまでの過程に不正確な事実を基に判決される可能性がある、2)正当と思われない判決が出ても、上訴ができない、3)調停人は裁判官ではなく、調停自体が内密に進行するため、調停人の偏見によって判決されることもある、などということです。また、調停によって解決される内容は、基本的に契約上で規定されている範囲の紛争解決となるため、契約条項以外の法的問題、例えば契約自体の時効などに関しては裁判所に提訴しなければならなくなり、結局費用や時間だけではなく、かえって問題を複雑化する可能性もあるということです。

従って、問題解決方法として裁判所を通すか調停を通すかの判断は、事業内容や米国企業との関係に関する分析を基に決定することです。いずれにしても、さらに厄介な問題は、もし米国企業に支払い能力がなければ、債権回収が不可能になる、または裁判所に提訴しても調停を通しても、その間に破産宣告をすることもあり、その場合は、債権回収額だけでなく米国企業からの経費(弁護士費用)請求も難しくなるので、問題解決の過程で十分な法的分析とリスクマネジメントを必要とします。

※当情報は、一般的、および教育的情報であり、読者個人に対する解決策や法的アドバイスではありませんのでご了承ください。

M0828-0003
(2017年10月2日作成)